干杯!donです。
日本酒と紹興酒。この2種の酒、実は製造工程がそっくりなのですが、色や風味は全くといっていいほど異なります(古酒はよく紹興酒っぽいと言われますね)
そこで今回は、紹興酒と日本酒の違いについてまとめてみました。少し専門的な情報も交えていますがご興味のある方の参考になれば嬉しいです。
中華郷土料理店に10年勤務。黄酒専門店を4年運営。店舗向けに黄酒講座なども開催経験あり。紹興酒の産地へ訪問したり中国酒関連の書籍を読み情報を収集。YouTube「毎天干杯!」も運営。
- 中華料理店のホール担当
- 紹興酒(黄酒)や白酒など中国酒を取り扱う企業全般
- 中国酒について知りたいソムリエ・唎酒師の方など
「紹興酒について基礎的なことから知りたい!」という方はこちらの記事をご参考ください!

日本酒と紹興酒の共通点を確認!

日本酒と紹興酒は並行複発酵という高度な発酵技術を用いて醸される醸造酒です。
この2種にはいくつもの共通点があります。
- 大まかな製造工程は同じ
- 原料が米の醸造酒
- 原料を糖化するために麹を使用する
- 甕やタンクの中で原料の糖化とアルコールの発酵を行う
浸漬や発酵期間など細かな違いはありますが、大まかな製造工程は大変似ています。それなのになぜあれほどまでに色や風味が異なるのでしょうか?
次に、日本酒と紹興酒の違いについて見てみましょう。
日本酒と紹興酒の違い6選

着目すべきそれぞれの違いを大きく6つ挙げてみました。
- 原料
- 精米歩合
- 掛米と麹米の精米
- 菌の種類
- 発酵用のタンク
- 酸の構成成分
細かく見るとまだありそうなのですが、一旦以上についてまとめます。新しい情報を発見次第、追加していきます。
原料
「さっき、原料は同じ米だって言ってたじゃないか!」
そんな声が聞こえてきます(笑)
どちらも米を使用した醸造酒には違いありませんが、米にはうるち米と糯米とがあります。日本酒はうるち米を使用し、紹興酒は糯米を使います。
うるち米と糯米で何がどう変わるのか?これはもう少し調査が必要なのですが中国酒について書かれた書籍「黄土に生まれた酒」によるとこのような表記があります。
「漿水(しょうすい)で仕込む製法はかつて日本酒にもあった。発酵が不十分な清酒となってしまうことが多く廃れてしまった。紹興酒では日本酒のように原料米の粳米澱粉が老化して糖化されなくなるのとは違って糯米澱粉は老化せず容易に溶ける。」
引用:「黄土に生まれた酒」花井士郎著※一部省略しながら抜粋
紹興酒は浸漬の際に乳酸発酵させた漿水を仕込みの水に使用します。糯米は老化せずに溶けていくので漿水を使用する製法に適している、と。
ただ、日本酒でも菩提酛(ぼだいもと)という同様の製法がありますよね。糯米を用いるのには別の理由が考えられるんじゃないかと思います。この点はわかり次第追記していきます。
精米歩合
日本酒の精米歩合は基本的に70%前後と言われていますが、紹興酒は90%程度とあまり削りません。これは、日本の食用米と同じぐらいの割合です。
米の表面にはタンパク質や澱粉などが含まれています。タンパク質はアミノ酸の源で、旨味の源であるのと同時に苦味や雑味も生むのです。
紹興酒はアミノ酸が豊富で日本酒の2〜3倍と言われています。その要因は、もち米をあまり削らないことがひとつ考えられます。
なぜそれほど削らないかという理由は定かではありませんが、個人的な考察は下記の通りです。あくまで参考程度にご覧ください。
- 米の容量が多い状態で酒造りをすれば多くの酒を造ることができる
- 精米機があまり普及していない
掛米と麹米の精米
「片白(かたはく)」「諸白(もろはく)」という言葉をご存知でしょうか。
掛米と麹米の両方とも精米して造られた酒を「諸白」といい、麹米だけ精米したものを「片白」といいます。今は日本酒のほとんどが諸白にあたりますが、江戸時代以前のまだ精米の技術がなかった時代では、片白が主流でした。
紹興酒は、今でも片白で造られます。しかも、掛米は糯米、麹米は玄麦とそれぞれ異なる原料を使用するのもひとつの特徴でしょう。
片白(精米:掛米○ 麹米×)→紹興酒
諸白(精米:掛米○ 麹米○)→日本酒
「諸白」
http://www.nada-ken.com/main/jp/index_mo/557.html
引用:「諸白」灘酒研究会HPより
菌の種類
前項でお話した通り、日本酒は米麹、紹興酒は麦麹(曲)を使用します。それぞれ麹の基となる菌が異なる点も非常に重要なポイントです。
※紹興酒では麹を「曲(きょく)」といいます。
- 米麹:黄麹菌
- 麦麹(曲):クモノスカビ、毛カビ
麹菌を使用した発酵文化は日本特有のもので、他のアジアの国ではクモノスカビなど麹菌とは異なるカビを使用するケースが多く見られます。
発酵用のタンク
日本酒はサーマルタンクで醸造をしますが、紹興酒は甕を使用します。
サーマルタンクは完全密封で空気を遮断しますが、甕には通気性があり、若干空気(酸素)が入り込むことで良好な発酵を促すことができます。
また、紹興酒は野外で甕を保存するため、温度調節が非常に困難です。しかし甕を利用することで気化熱の作用が発生し、自然と温度調節ができるのではないか、というのは個人的な見解です。
常連さんから面白い話を聞いた。トルコで水の運搬を空気穴のある素焼き甕で行う。これは気化熱によって水の温度が上がらないため敢えて使っているらしい。紹興酒が甕で発酵させるのも一緒?温度調節は発酵にとって重要なので同じような効果を狙っているのかもしれないhttps://t.co/WI6T4Zzu5j
— don (@umaddon1) January 7, 2022
酸の構成成分
日本酒と紹興酒の大きな違いのひとつ、「酸」の構成成分です。これは風味の違いに大きく影響していると言ってよいでしょう。
紹興酒の酸は主に乳酸(50%以上)、酢酸です。対して日本酒はコハク酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸です。
仕込み水に漿水を使用する紹興酒は、乳酸量が格段に多くなります。さらに紹興酒はアミノ酸が豊富なため、味全体がくどくなりやすいのですが、この乳酸の存在が味全体をシャープにする役割も果たしています。
まとめ
2種は大まかな製造工程は似ていてもさまざまな違いがあるということがよくおわかりいただけたのではないでしょうか。
紹興酒はよくも悪くも伝統的な製法を重んじて現在に至っています。
革新的な酒造りが進んでいる日本酒から吸収できることは多々あるのではないかと感じずにはいられません。
オーセンティックな紹興酒はもちろん好きですが、今後は斬新な紹興酒の登場に期待したいものです。